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荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉ゆきてかへらぬ

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若き俊才3人の峻烈な愛

 大正末期の京都。20歳の無名の新進女優・長谷川泰子(広瀬すず)は、17歳の学生・中原中也(木戸大聖)と出会う。2人は虚勢を張りつつも互いに惹かれ合い共に暮らし始める。

 やがて東京に引っ越した2人の家を小林秀雄(岡田将生)が訪れる。小林は詩人としての中也の才能を誰よりも認めており、中也も卓越した評論をする小林に自分の詩を高く評価されることを誇りに思っていた。

 中也と小林の仲睦まじい様子に嫉妬すら覚える泰子。そんな泰子に小林は惹かれていき、複雑な三角関係が始まる――。

 才気溢れる2人の男と1人の女が情熱をぶつけあい、傷つけあいながらも愛し愛された濃密な青春群像が描かれる。メガホンを取ったのは「遠雷」「探偵物語」「ウホッホ探険隊」など数々の話題作を世に送り出し、2009年公開の「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~」で第33回モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞に輝いた名匠・根岸吉太郎監督。

 ご存知の通り、根岸監督は山形市にある東北芸術工科大学の理事長を務める。本作は「ヴィヨンの妻」以来16年ぶりの長編になるが、そのブランクは同大映像学科長→学長→現在と重なる。

 脚本はやはり「ヴィヨンの妻」の田中陽造が40年以上前に書き上げていたというから驚く。

 根岸監督が本作の構想を温め始めたのは8年ほど前からとか。5年前に当時21歳の広瀬すずに泰子役をオファーしたところ、広瀬は快諾。

 「彼女は色んな役を演じてきたが、まだ引き出されていない秘めたものがある」と思ってのことだというが、映画を観ると広瀬の配役は正に慧眼だったことが証明されている。

 広瀬演じる泰子を通すことで、中原中也や小林秀雄の実像が見えてくる。岡田将生、木戸大聖も好演している。

 冒頭で惹き込まれた京都の瓦屋根の家並みは実際に建てたというから驚く。根岸監督率いるスタッフと若き俳優たちによって良き時代の日本映画が甦った。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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