〈荒井幸博のシネマつれづれ〉花まんま 4月25日(金) 全国公開
22年前に封印した秘密
2005年・第133回直木賞を受賞した朱川湊人の同名小説の映画化。主演は鈴木亮平と有村架純。メガホンを取ったのはかつて東北芸術工科大学で教鞭(きょうべん)を取っていた前田哲監督。
大阪の下町で暮らす5歳違いの兄妹、加藤俊樹とフミ子。早くに両親を亡くし、俊樹は死んだ父と交わした「何があっても妹を守る」という約束を胸に、高校を中退して工場で働きながらフミ子を守り続けてきた。
フミ子の結婚が決まり、兄としての使命が果たせて喜ばしいはずの俊樹だったが、心の中に一抹(いちまつ)の不安がよぎる。
それは2人が22年前に封印したはずの秘密だった。大阪の2人とは縁もゆかりもない滋賀県彦根市の繁田家で起きた出来事。万一、秘密の封印が再び解かれたら――。

前田監督は「ロストケア」「九十歳。何がめでたい」など社会派からサスペンス、ラブコメなど幅広い分野の作品を手がけてきた。本作も人の哀しみや温かさを繊細な筆致で描く朱川の世界を巧みに映像化している。
鈴木と有村はともに兵庫県出身なので、2人のネイティヴな関西弁でのやり取りはまるで漫才のようで笑わせられる。ただ有村はユーモラスさを醸し出す一方で、兄を想いながらも幼い時から繁田家との秘密を抱えているという難しい役どころのフミ子を見事に演じ切っている。
このほかフミ子の結婚相手でカラスと会話ができるという太郎を演じた鈴鹿央士、2人の子ども時代を演じた田村塁希と小野美音、そして喪失の絶望からの再生を演じた酒向芳が素晴らしい。
共演は他に板橋駿谷、安藤玉恵、六角精児、ファーストサマーウイカ、オール阪神・巨人ら。京都蹴上(けあげ)浄水場の美しいツツジ公園も重要な役割を果たしている。
「花まんま」が何をさすのかは映画を見てのお楽しみ。フミ子の結婚披露宴での俊樹のスピーチは鈴木の意見が反映されたものとか。出席者同様、あなたの涙腺が崩壊するのは間違いない!

シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。