セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第122回 角地(かどち)
頭の中に思い浮かぶ地図のことをメンタルマップというそうだが、角地の建物は特に重要な役割を果たしているのではないだろうか。
例えば、人に道順を説明する時に「某町1丁目の交差点を左に曲がって…」とは言わず、「藤田菓子屋の角を…」「菊地下駄屋のところを…」などといった具合に角地の建物を引き合いに出す。角地の建物はまさにランドマークである。
歴史のある建物ほど多くの人に知られていて道を説明する際には大いに役に立つのだが、裏を返せば、そんな建物ほど老朽化や道路拡張などで取り壊しの対象になる。
壊された後は特徴のない一般住宅などが建つことが多く、そうなってしまうと途端に道の説明は難しくなる。
しばらくは「ほら、前にいづみ古本屋があった角…」でも通用するだろうが、人々の記憶が薄れてしまうと「某通りを東に行って2つ目の交差点…」などと長々とし、味気ないものになってしまう。そうしてみんなのメンタルマップから消え去れば、角地の建物はすべての役目を終えるのかも知れない。 (F)