セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第116回 有海理美容器具店
山形市六日町にあるこの店は、店名が示すように美容・理容器具の販売店のようだったが、道路拡張前のその建物は特徴的なもので、モルタル塗りのグレーの店舗に寄り添うように店名を示す板を張りつけていた。
大通り側から見ると店頭のカーテンは必ずといっていいほど閉められていて、営業しているようには全く見えなかったが、延命地蔵側にある店舗の裏に回るとたくさんのダンボールが並んでおり、それなりに繁盛している様子がうかがえた。
隣接していた古い板壁の建物は店舗としては使っていなかったようで、聞くところによると本来は歯科医院として使われていたものらしかった。年代は不明だが、戦前のものであることは間違いなかったであろう。
現在、店舗のあったところは拡張された道路になり、車には都合の良い道になったということであろうが、周囲の街はただの通過点になってしまったようだ。
馴染みの建物が消えるたび、昔からの知り合いが次々と去っていくような気持ちになる。 (F)