セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第93回 防火用貯水池
釣りと言えば一般的には海や川を思い浮かべるが、子どものころの釣りは貯水池だったという人もいるだろう。
かつてはどの町内にも防火用貯水池が設置されていたものだ。その多くは転落防止のために金網が張られていたが、水面が見える状態だったので子どもたちの格好な釣り場になっていた。
フナやドジョウもいたが、子どもたちが釣果(ちょうか)を競ったのがザリガニ。当時はニホンザリガニも生息していたが人気はなく、赤く大きなアメリカザリガニが本命だった。
捕り方はといえば、糸に結んだイカの足で誘い出し、後ろに静かに網を構え故意に脅かすと、ザリガニは自分から網に飛び込んできた。今はほとんど姿を消したゲンゴロウや水カマキリも網に入ってきたが、外道扱いされた。
子どもたちの社交場だった貯水池はその後、安全の名のもとに各地で埋め立てが進み、釣りを楽しむ子どもたちの姿も消えていった。 (F)