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セピア色の風景帖

《セピア色の風景帖》 第八十八回 北都観光リフト

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 蔵王エコーラインの刈田駐車場からお釜までを結ぶ「刈田リフト」は今も稼動しているが、同リフトと並行して赤サビたもう一本のリフト跡が無惨な姿をさらしている。

《セピア色の風景帖》 第八十八回 北都観光リフト

 このリフトは今から50年以上前、山形市に本社を置く「北都開発」という会社が敷設したものであるが、ある事情により稼動できなかったという閲歴(えつれき)を持つ。
 ある事情とは俗に「蔵王県境事件」と言われる。記録によれば、当時の営林署(国)が北都とほぼ同時にリフト敷設を申請したY社に便宜を図り、本来は山形側にあった県境を宮城側に移動するという、現在の感覚では考え難いものだった。

 事件は裁判に発展し、30年もの歳月を経て国が北都に賠償金を支払うことで決着をみたが、この間に北都は経営的に力尽き、リフトはほとんど客を運ぶことがないまま放置されたのである。

《セピア色の風景帖》 第八十八回 北都観光リフト

 麓(ふもと)のリフト基地の壁面には「県境裁判を忘れるな」という書き込みもあるが、意趣返(いしゅがえ)しのように国は今年1月、北都に対し「国有林を不法に占拠している」とリフトの撤去を求めて山形地裁に提訴した。
 死屍(しし)にムチ打つようなこの提訴を、山形新聞だけが報じている。 (F)

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