セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第五十八回 シバタモデル
街の風景において、とりわけ重要なのは交差点角の建物の印象である。
その場所に印象的な建物があると人々はそれを目印にして往来し、親しみを感じるようになる。まして大人から子どもまでが親しめる建物であれば、必然的に街にはなくてはならない存在になるだろう。
そんな存在だったのが以前にも取り上げた十日町角(いなり角)の藤田菓子店、そして旅籠町角のシバタモデルだろう。シバタモデルは昭和初期の洒落た建物だった。店内に並ぶ模型の数々に大人も子どもも夢中になったものだ。
模型は創造力と想像力を同時に育む趣味の王様だった。お年玉をもらったその足でモーター動力で開閉する「勝鬨橋(かちどきばし)」のプラモデルを買いに行ったことが懐かしく思い出される。
包装紙に印刷されていたのは「シバタモデルっ子 科学っ子」というキャッチフレーズ。その包装紙にくるまれたプラモデルを大事そうに抱えて店を出てくる子どもたちの姿は建物の消失とともにえてしまった。
だがシバタモデルによって育まれた子どもたちのモノづくりにかける思いは今も生き続けていると信じたい。 (F)