セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第二十一回 菊池履物店
山形市中心部から北上し、馬見ケ崎橋を渡って双月町に入る。すると目に飛び込んでくるのが「これより双月町」という菊池履物店の看板。今風に言えば街のランドマークといった趣であった。
菊地履物店は昭和初期の建造と思われる衝立のような褐色の建物だった。店先には足の大きさくらいの木片〜おそらく下駄の台木だったのだろう〜が渦巻状に高く積み上げてあった。これから下駄に仕上
げられるにしては既に日焼けし、古ぼけていて商品というよりはディスプレイのようなものであったように思われた。
店横には現在のゴミ収集システムになる以前に使われていたと思われるゴミ入れがまだ残っていた。昭和の暮らしの文化財とでもいうべきもので
あったが、こういうものは誰も貴重とは思わないためいつの間にか消えてしまう運命にあった。
ここはなぜか、通りの両側にそれぞれ履物屋と団子屋があり、加えて菊池履物店の前には駄菓子屋もあって、特に花見の時期には馬見ケ崎川を挟んだ護国神社側からも多くの客を集めていた。しかし今ではそれらの店は撤去されてしまい、桜の季節であっても賑わうことはなくなってしまった。 (F)