山形コミュニティ新聞WEB版

セピア色の風景帖

《セピア色の風景帖》 第十五回 古本屋

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 近年まで山形市内にはいくつかの古本屋があった。

《セピア色の風景帖》 第十五回 古本屋

 狭く薄暗い店内、立ちこめる古い紙のにおい、必要最小限のことしか話さない無口な店主——。街なかで黒光りするような存在だったが、そのほとんどが道路拡張や建て替えで姿を消してしまった。
 よく足を運んだのが十日町の「積文堂」。歩くすき間がないほど本で埋め尽くされた店内で目当てを物色するのはさながら発掘作業であった。 積んである本をどかしながら探していると時に店主に怒られることもあり、スリルと背中合わせの密度の濃い時間だった。
自分が生まれる以前の時代の本も豊富にあり、単に本を買うというより遡(さかのぼ)った時間を買うという感じであった。

《セピア色の風景帖》 第十五回 古本屋

 積文堂以外にも昭和初期やそれ以前のものまでそろえた緑町の「いづみ書房」、昔の紙芝居なども置いていた相生町の「栄文堂」などが存在感を発揮していた。今も営業しているのは、歴史は比較的新しいが、旅篭町の「香澄堂」くらいであろうか。
 古本屋は「リサイクルブックショップ」に置き換わった。明るく整然とした店内、軽快なBGM、マニュアル通りの接客——。扱うものが同じであっても、そこには古本屋が醸(かも)していたあの雰囲気がないことは言うまでもない。  (F)

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