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セピア色の風景帖

《セピア色の風景帖》 第十四回 北山形ムーラン劇場

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 今では憶えている人も少ないだろうが、以前は「北山形のムーラン劇場」といえば、中高生を含め幅広い層から知られる存在だった。

《セピア色の風景帖》 第十四回 北山形ムーラン劇場

 劇場といっても演劇や映画を上映していたわけではなく、女性の裸体を鑑賞させるいわゆるストリップ劇場だったため、実際に足を踏み入れた人はさほど多くはなかったと思う。
 ただ、当時は規制が緩かったのか、ムーラン劇場の広報車が市内を走り回って宣伝文句をアナウンスしており、それが授業中の教室の中にも聞こえてくるというようなこともあった。 
 「ムーミン」にその名が似ていたこともあり、子どもであっても劇場の名は脳裏に刻み込まれたのではないか。
 
 名前の由来はフランスのモンマルトルにあるキャバレー「ムーラン・ルージュ」であろう。ムーランとは「風車」の意味で、フランスの本家の屋根の上には大きな風車が設えてあるようだが、山形のムーランにはそれはなかった。単に名前だけを拝借したようだ。

 温泉地や歓楽街に多いこの種の施設がなぜ北山形の住宅地にあったのかは不明である。 いつの日だったか、黒塗りの車が横付けされていて、スーツ姿の男性数人が入っていくところを目撃した。当時は「接待天国」という言葉があり、これも接待のひとつかと思える光景であった。
 
 その後、規制のためか経営難のためか、ムーラン劇場はいつの間にか姿を消した。  (F)

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