相続の基礎知識
相続の基礎知識/(34)遺産分割前の預金払い戻し制度
今回は遺産分割前の預金の払い戻し制度についてお話ししましょう。
引き出せない故人口座
相続が発生した場合、故人名義の預金は相続財産となり、預金口座は凍結されてしまいます。かつては遺言書か遺産分割協議がまとまるまでの間、相続人全員の同意がない限り相続人の1人が故人の預金を払い戻すことはできませんでした。
このため、故人の医療費や葬式代などに充当するため「とりあえず故人の預金を引き出したい」と思っても、なかなか難しいのが実情でした。
19年7月からスタート
ただ、それでは相続人の当面の生活に支障が出ることも考えられますよね。そんな事態を回避するため2018年に民法が改正され、翌19年7月1日から「遺産分割前の預金払い戻し制度」が新設されたのです。
払い戻しの方法には金融機関に直接請求するやり方と、家庭裁判所に判断を仰ぐやり方の2つがあります。
やり方は2通り
前者の場合、金融機関に所定の書類を提出すれば制度が利用できます。払い戻せる金額は故人の預金額の3分の1に法定相続分を乗じた額になります。ただし金融機関ごとの払い戻し上限額は150万円です。
後者を利用する場合は、家裁に遺産分割の調停や審判を申し立てていることが条件です。家裁に相続預金の払い戻しを申し立て、その必要性が認められれば相続預金を払い戻せます。金額は家裁が決定するため、上限は設定されていません。
遺産の一部分割取得
なお、この制度で払い戻しを受けた預金は遺産の一部分割で取得したものとみなされ、その後の遺産分割ではその事情が考慮されます。
金融機関で直接払い戻しを希望する場合、金融機関によって手続きに必要な書類が異なることがあるのでご注意ください。
司法書士
遠藤 和法(えんどう かずのり)
1988年(昭和63年)天童市生まれ。2011年に司法書士資格取得。趣味はウイスキー。