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荒井幸博のシネマつれづれ

ロストケア

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高齢化、今そこにある危機

 「凍てつく太陽」などで知られる葉真中顕の第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作の映画化。メガホンを取ったのは東北芸術工科大学で教鞭をとったこともある前田哲監督。

<荒井幸博のシネマつれづれ>ロストケア

 ある民家で老人と訪問介護センター所長の殺害遺体が発見された。検事の大友秀美(長澤まさみ)はこのセンターでの老人の死亡率が異常に高いことに気づき、センター職員の斯波宗典(松山ケンイチ)が休みの日に死亡が集中していることを突き止める。


 斯波は献身的な介護士として周囲から信頼されている心優しき青年。大友は真実を明らかにするべく斯波と対峙する。そこで何が起きているのか、真相を明らかにすべく問い詰める大友に対して斯波は「殺したのではなく救ったのだ」と主張するのだった。


 介護する家族が愛情と負担のはざまで苦しんでいるのに、国や世の中は目を背けて自己責任を強いているというのが斯波の論拠。大友は法の正義の下「だからと言って殺していい理由にはならない」と否定するのだが、斯波の揺るぎない信念と向き合い、真相に迫っていくにつれ激しく心が乱れていく――。

 人気・キャリア・実力伯仲の松山と長澤による、互いの“正義”をぶつけ合ってのバトルは見応え充分。斯波の父役の柄本明、大友の母役の藤田弓子ほか、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、井上肇などが脇を固める。


 前田監督は1998年に監督デビュー。ここ数年は2018年公開の「こんな夜更けにバナナかよ」、「老後の資金がありません」「そして、バトンは渡された」(同21年)などの話題作を次々と手がけ、今年6月にも「大名倒産」の公開を控える活躍ぶり。

 そんな前田監督は本作に関し「高齢化社会の到来など50年前から分かっていたはずなのに国は充分な施策を打ってこなかった。この問題を提示できれば」と語る。


 日本の〝今、そこにある危機〟に正面から切り込んだ社会派エンターテインメント映画。

 

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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