PLAN75
近未来の超高齢化社会は
世界3大映画祭の一つ、第75回カンヌ国際映画祭の授賞式が5月28日(日本時間29日)開かれ、斬新な作品を集めた“ある視点”部門に出品された早川千絵監督「PLAN75」が新人監督賞で次点に当たる特別賞を受賞した。日本では6月17日に公開。
同作品は早川監督の長編デビュー作。本映画祭に「ベイビー・ブローカー」を出品して最優秀男優賞を獲得した是枝裕和監督が初の総合監修を務めたオムニバス映画「十年 Ten YearsJapan」の一篇「PLAN75」を新たに構築、キャストを一新し、早川監督がオリジナル脚本で製作した。
その意味で早川監督は「すばらしき世界」の西川美和監督、6月3日公開の「マイスモールランド」の川和田恵真監督ら同様、“是枝チルドレン”と言える。3人ともオリジナルストーリーを紡いでおり、脚本家、監督として日本映画界の未来を背負う存在になっているのが頼もしい。
ストーリーは団塊の世代が75歳を越え、約4人に1人が75歳以上という超高齢化社会を迎えた近未来の日本が舞台。増えすぎた高齢者が財政を圧迫する中、75歳以上の高齢者に死を選ぶ権利を認めるプラン75が国会で可決される。
夫と死別し、ひとりで暮らす78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)は高齢を理由にホテル清掃の仕事を解雇され、住む場所をも失いそうになり、プラン 75の申請を検討し始める。一方、プラン75の職務を忠実に執行するだけだった周囲の若者らは、次第に制度のあり方に疑問を持ち始める。
寅さんの妹・さくらのイメージが強い倍賞も間もなく81歳。素顔の表情や手の動きで老いや孤独を見事に表現している。若者を演じる磯村勇斗、河合優実、そしてフィリピンから単身来日したマリア役のステファニー・アリアンの好演も光る。
本作が描くのは決して荒唐無稽な話ではなく、日本が抱える「今そこにある危機」だ。年を重ねることは美しいという日本であり続けて欲しい。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。