山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

えんとつ町のプペル

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今の社会と重ね合わせ

 お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣の原作によるベストセラー絵本「えんとつ町のプペル」をアニメ映画化したのが本作。西野自ら脚本、製作総指揮を務めている。

<荒井幸博のシネマつれづれ> えんとつ町のプペル

 物語の舞台は、林立する煙突の黒い煙が空一面を分厚く覆う「えんとつ町」。煙の向こうに“星”があるなんて誰も想像すらしない。


 そんな町でただ一人、紙芝居に託して星を語っていたブルーノが突然消えてしまい、人々は海の怪物に食べられてしまったと噂する。ブルーノの息子ルビッチは、学校をやめて煙突掃除屋として家計を助ける。


 父の教えを守り、周囲から嘘つきと後ろ指をさされながらも星の存在を信じるルビッチは、ゴミから生まれたゴミ人間プペルと出会う。のけもの同士の2人は固い友情で結ばれる。

 そんなある日、海からボロボロの巨大なゴミの怪物が浮かび上がる。それは父の紙芝居に登場する、プペルの町には存在しないと思われていたはずの“船”であることが分かった。


 ルビッチとプペルは「星を見つけに行こう」と決意する。その計画を阻止しようと異端審問官が立ちはだかるが、2人は大冒険の旅に出かけるのだった。そして、えんとつ町に隠された驚きの秘密とは――。

 夢を語れば笑われ、それを目指せば叩かれる今の社会。それを助長しているのがSNSの存在で、大多数と異なる言動や行動は即、炎上してしまう。まして山形では異質な存在は「あがすけ」として忌み嫌う風土が根強く残る。


 今の社会は閉塞感が漂うえんとつ町になぞらえられよう。そんな町にあって、自分が信じるところに向かって行動するルビッチとプペルに胸を打たれる。


 奥行き深い映像、色彩、場面に即した音楽、そして、窪田正孝、芦田愛菜、伊藤沙莉らの声の演技の確かさにも感動。
 終息の気配がないコロナ禍の中で、困難に立ち向かう気力がふつふつと湧いてくる作品だ。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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