〈荒井幸博のシネマつれづれ〉きみの色
悩める若者達が輝きだす
「映画けいおん!」「映画 聲の形」で知られる山田尚子監督が、「けいおん!」シリーズ以降何度もタッグを組んできた吉田玲子のオリジナル脚本を映画化したアニメーション映画。第26回上海国際映画祭で金爵賞アニメーション最優秀作品賞を受賞した。
長崎のミッションスクールに通うトツ子は、人の感情や内面が「色」で見える不思議な力を持っている。彼女は友達や家族の色を暗くしないよういつも気を遣い、空気を読み、その場を取り繕うような嘘をついてしまうのだった。
そんなある日、彼女は美しい色を放つ美少女きみ、音楽好きの少年ルイと出会い、ひょんなことから3人でバンドを組むことになる。トツ子がピアノ、きみがボーカルとギター、ルイはテルミンとオルガンを担当。離島の古教会で練習を重ねるうち、3人は次第に心を通わせていく。
気づけば友情とほのかな恋心のような感情が生まれていた。そして学園祭で初のライブに挑戦することに――。
トツ子、きみ、ルイの声は鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖の注目の若手俳優3人で、いずれも1600人からオーディションで選ばれた。きみのルームメイト役はお笑い芸人やす子、祖母役は戸田恵子。3人を導くシスター日吉子は新垣結衣が演じている。
主題歌はMr.Childrenによる書きおろしの「in the pocket」。
山田監督らしいカメラワークと色彩感覚で映す詩的な美しいシーンが3人の若者の内面を繊細に感情豊かに描き出している。ミッションスクールの独特の雰囲気、長崎の島々の美しい風景などディテールの描写も見事。観終わって心がほんわり暖かくなる王道の青春映画。
山田監督にお話をうかがうと「繊細で、悩んだり迷ったりしている思春期の若者に、『決して一人じゃないよ、必ず共感してくれる人がいるよ』と伝えたかった」と語ってくれた。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。