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荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉傲慢と善良

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結婚を前に彼女が突如失踪

 第7回ブクログ大賞を受賞し、発行部数100万部を突破した辻村深月(つじむら みづき)の同名ベストセラー小説を、藤ヶ谷太輔と奈緒のW主演で映画化。ラストは映画版ならではのオリジナル展開が待ち受ける。

 長年つき合っていた彼女にフラれ、仕方なくマッチングアプリで婚活を始める架(かける)(藤ヶ谷)は、二十数人目で出会った控えめで気立ての良い真実(奈緒)とつき合い始めるが、1年経っても結婚には踏み切れない。

 そんなある日、架は真実がストーカー被害にあっていることを知らされる。架は彼女を守る必要に迫られ、婚約し同居を始めるが、結婚式について話し合った矢先に真実が失踪する。

 架は真実の両親や友人、過去の見合い相手らを訪ね、居場所を探すうちに、知りたくなかった彼女の過去と嘘が露わになってくる――。

 直木賞作家の辻村は、深い人間心理の分析が作家としての特徴。藤ヶ谷は「原作は人生で1番好きな小説。映画化するなら絶対に架を演じたい」と念じていたとか。ここ数年、テレビの公開トーク番組「Aスタジオ」で笑福亭鶴瓶と共にホストを務め、ゲストを深掘りしている経験も生きたのか、〈傲慢〉な架を見事に演じている。

 奈緒も辻村作品のファンで、出演することが夢だったという。藤ヶ谷や監督と結婚や恋愛の価値観についてとことん話し合って臨み、〈善良〉に生きてきた真実を等身大で演じた。

 一見すると純朴だが、実は秘めたものがある女性を演らせたら、奈緒は若手ではピカイチではないだろうか。

 タイトルの「傲慢と善良」は誰しもが持っているものと改めて認識させられる。劇中、前田美波里演じる結婚コンサルタントのような小野里が語る言葉が胸に突き刺さるし、腑に落ちる。

 脚本はドラマ「最愛」の清水友佳子、監督は公開中の「ブルーピリオド」が好調の萩原健太郎。恋愛や結婚だけでなく人間関係に迷ったり、悩んでいる人も参考にしたくなる映画。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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