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荒井幸博のシネマつれづれ

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ネット社会の闇が生む憎悪

 吉井良介は、町工場で働きながら〝ラーテル〟というハンドルネームを使い、転売屋として日銭を稼いでいた。

 扱うのは医療機器、バッグ、フィギュアなど様々で、安く仕入れて高く売るのが吉井のやり方。転売の基本を教わった高校の先輩・村岡から儲(もう)け話に誘われても乗らず、独自の道を歩いている。

 勤務先の工場の社長・滝本から管理職への昇進を打診されても「自分には向かない」とにべもなく断り、退職。郊外に事務所兼自宅を借りて、恋人・秋子との新生活をスタートさせ、地元の若者・佐野を雇い入れる。

 転売業が軌道に乗り始めた矢先、吉井の周囲で窓ガラスが割られたり、怪しい人影が現れるなど不審な出来事が相次ぐようになる。

 吉井が無自覚にばらまいた憎悪の種はネット社会の闇の中で増幅し、やがて集団狂気へとエスカレートしていくのだった――。

 主人公・吉井に菅田将暉、恋人・秋子を古川琴音、吉井が雇う青年・佐野を奥平大兼、工場の社長・滝本を荒川良々、吉井を転売業に誘う先輩・村岡を窪田正孝。他に岡山天音、赤堀雅秋、山田真歩、松重豊などが出演。監督は、97年の「CURE」以来世界で注目され、国際映画祭で高い評価を受け続けている黒沢清。

 菅田は、掘り出し物を悪どく安値で買いたたき、それを高く売りつけるというそれだけのことを真面目にコツコツとやり、増えていく預金残高だけが信じられる存在という感情の起伏の薄い吉井を巧みに演じ切った。

 それだけに、集団狂気のターゲットにされた時の怯(おび)えた様とのギャップが可笑しい。

 窪田、荒川、岡山の意外な役どころ、奥平の怪しさ、活躍が目覚ましい古川、ベテラン松重など、みな素晴らしい。

 黒沢演出が冴えるサスペンススリラー。嫉妬や羨む心をSNSの世界で駆使する悪意の凶弾が如何に愚かなことかを思い知らされる。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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