〈荒井幸博のシネマつれづれ〉十一人の賊軍
これぞ時代活劇の決定版!
10人の罪人と1人の藩士が藩の命令により決死の任に就く姿を描く時代劇アクション
1868年、新政府軍(官軍)と旧幕府軍とで争われた戊辰戦争。新潟の小藩・新発田藩は旧幕府軍側の「奥羽越列藩同盟」に名を連ねていたが、城代家老の溝口内匠(阿部サダヲ)は官軍への寝返りを画策していた。
寝返りを同盟軍に悟られないため、また城下が戦渦に巻き込まれるのを避けるため、溝口は一計を案じる。それは藩境にある最前線の砦を10人の死刑囚に他藩の兵に偽装して守らせ、彼らを賊軍として官軍と戦わせようというものだった――。
死刑囚10人は、妻を強姦した藩士を殺害した政(山田孝之)、政を兄と慕う知的障害者のノロ(佐久本宝)、イカサマ師の赤丹(尾上右近)、女郎のなつ(鞘師(さやし)里保)ら。彼らを束ねるのは、藩に不満を抱く道場主の兵士郎(仲野太賀)。
ところが、武士の矜持にかけ賊軍の汚名を着てでも旧幕府軍に殉じようとするのは兵士郎だけで、10人は「任務を終えれば無罪放免する」という溝口の口約束を信じて集まってきた烏合(うごう)の衆。
そんな彼らが「任務を終えれば口封じのため処刑する」という溝口の真の狙いを知らされ、〝捨て石〟扱いに憤りながらも一致団結して戦う様に胸を突き動かされる。
山田は妻の元へ帰ろうと何度も脱出を試みる政の心のひだを絶妙の演技で表現。太賀は初めてとは思えぬ見事な殺陣で本作をけん引している。火縄銃を使う鉄砲隊に加え、大砲でのダイナミックな爆破シーンは迫力満点。
本作は、「仁義なき戦い」シリーズを手がけた東映の名脚本家・笠原和夫が60年前に書いたプロットを基に白石和彌監督が映画化したもので、監督としては「碁盤斬り」に続く時代劇。
白石監督は「権力者が罪人を戦場の最前線に送るやり方は、ロシアがウクライナ侵略でやっていることと同じ。そうした不条理さを時代劇で描く笠原さんの発想に強く引かれた」と語る。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。