〈荒井幸博のシネマつれづれ〉ホワイトバード はじまりのワンダー
人間の真の強さ優しさとは
2018年公開の「ワンダー 君は太陽」は、顔に障害を持つ10歳の少年オギーが学校でいじめにあい、挫けそうになりながらも家族に支えられて困難に立ち向かう物語。全世界での興行収入は320億円を突破する大ヒットとなったが、同作でオギーをいじめていたジュリアンが本作の主人公。
いじめが原因で退学処分となり、転校したジュリアンは人との関わりを避け、孤独な学校生活を送っていた。そんな時、画家として活躍してきた祖母のサラがニューヨークで回顧展を開くためパリからやってくる。
そして自分の居場所を失っていたジュリアンを心配し、封印していたはずの自身の少女時代の体験を語り始める。
1942年、ナチス占領下のフランス・パリ。ユダヤ人たちへの迫害が厳しさを増す中、ユダヤ人であるサラ一家は収容所に送られる前にフランスから脱出しようと決める。しかし、サラの学校にナチスが押し寄せ、ユダヤ人生徒を連行する。
運良く逃れたサラを助けてくれたのは同級生のジュリアン。彼は片足が不自由で、その歩き方から「カニ」と呼ばれていじめられていたが、彼の家の納屋で息をひそめて暮らす日々が始まった。 誰もがユダヤ人を密告し自分だけは助かろうとしていたそんな時に、ジュリアン一家は命がけでサラを匿(かくま)おうとしてくれたのだった。
本作は、絶体絶命の緊迫した中で芽生える恋物語でもあるが、それを語る祖母サラを演じているのがキャリア60年のオスカー女優ヘレン・ミレン。卓越した演技は観る者を惹(ひ)きこむ。
祖母サラがジュリアンに伝えたかったのは、ナチスの蛮行や戦争の恐ろしさと同時に、人間の本当の優しさと勇気だった。ジュリアンは祖母の話に胸打たれ、自分の名前の誇らしい由来を理解するのだった。
タイトルの「ホワイトバード」は、大空を舞い、つらい時に希望を届けてくれる自由への憧れの象徴。涙とともに「人間万歳!」と思わず叫びたくなる作品。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。