〈荒井幸博のシネマつれづれ〉サンセット・サンライズ
笑って泣ける感動作
コロナ禍で世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。東京の⼤企業に勤める釣り好きの西尾晋作(菅田将暉)は、リモートワークが導入されたことを機に海沿いの宮城県南三陸の町に〝お試し移住〟することを決める。
住まいは4LDK、家具家電完備で月6万円という格安物件。家主の関野百香(井上真央)は町役場職員で、東日本大震災以降に増えた空き家対策を担っていた。自分の持ち家の住み手を募ったところ、晋作が食いついてきたというわけ。
お気楽な釣り三昧の日々を謳歌する晋作だったが、町民は東京から来たよそ者を警戒、特に百香をマドンナとあがめる居酒屋「海幸」の店主ケン(竹原ピストル)と常連客タケ(三宅健)らは晋作を敵視する。軋轢が生じるかと思いきや、持ち前のポジティブな性格と⾏動⼒で晋作は町民に溶け込んで行く。
そして晋作が勤める東京の会社の社長(小日向文世)は町に眠るお宝物件に目をつけて一儲けを企むが、晋作は自分の住まいにまつわる百香と義父(中村雅俊)の哀しい秘密を知る――。
楡周平の同名小説を、宮城県栗原市出身のヒットメーカー・宮藤官九郎が脚本を担当、最上町出身の岸善幸が監督を務めて映画化した作品。
菅田は「あゝ、荒野」以来7年ぶりに岸監督とタッグを組むことに。「そこのみにて光輝く」で菅田の姉を演じた池脇千鶴が百香の役場の先輩を演じ、岸監督と同郷のビートきよしが風変わりな町民を演じているのも嬉しい。そして中村雅俊が女川町出身であることは広く知られている。
音楽は「キセキ あの⽇のソビト」で菅田と縁の深いグリーンボーイズ。
町民のたくましさや温かさをユーモアで包み込み、コロナ禍の日本、過疎化に悩む地方、独居老人、震災等の社会問題と正面から向き合いながら見事な娯楽作品へと昇華させている。
随所で登場する南三陸の海鮮料理に、思わず唾を飲みこんでしまった。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。