山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉35年目のラブレター

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実在の夫婦の感動譚

 2003年に朝日新聞で紹介され、創作落語にもなった実話をもとに、「今日も嫌がらせ弁当」の塚本連平が脚本・監督を手がけた作品。

 戦時中、片田舎で過酷な幼少期を過ごし、満足に学校に通えなかった西畑保は読み書きができないまま大人になる。生きづらい日々の中で人情味あふれる寿司店の親方と出会い、寿司職人として身を立てる。

 親方の世話で皎子(きょうこ)と運命的な出会いを果たして結婚するが、読み書きが出来ないことは秘密にしていた。ただそんなことが隠し通せるはずもなく、半年後には露見。別れを覚悟する保だったが、皎子はそんな保を責めることなく「今日から私があなたの手になる」と手を握って語るのだった。

 そんな皎子に支えられ、無事に定年退職をした保は夜間中学の看板を見て、一念発起して入学するのだった。それは、これまで自分に寄り添い続けてくれた皎子へ感謝の想いを伝えるラブレターを書いて贈りたいとの一心からだった。

 西畑夫婦を笑福亭鶴瓶と原田知世、2人の若き日を重岡大毅と上白石萌音が演じる。4人の好演によって、似ても似つかないと思った2組が中盤から重なり出すから不思議だ。その意味で鶴瓶の好演が特筆もので、涙が前半から溢れ出す。

 本作を企画しメガホンを取った塚本連平監督は、白鷹町出身のママチャリさん原作の映画化で県民映画となった「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」の監督で馴染み深い人。

 SNSやメールが浸透し、手紙のやり取りが稀有になってきた昨今、本作のほか「ファーストキス 1ST KISS」や「大きな玉ねぎの下で」と手紙が重要な役割を果たす映画が相次いで公開されている。

 これを時流への警鐘とみるのはうがちすぎだろうか?未だに直筆の手紙に重きを置いている筆者としては心強い作品群である。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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