山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

〈荒井幸博のシネマつれづれ〉大好き~奈緒ちゃんとお母さんの50年~

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障害者の娘と母の成長物語

 1973年に生まれた西村奈緒さんは、生後間もなく難治性てんかんと知的障害があることが判明する。本作は奈緒さんと母・信子さんの歩みを描く「奈緒ちゃんシリーズ」の5作目に当たる。

 生まれた時、医師から「この子は長く生きられないかもしれない」と言われた奈緒さんだったが、専門病院への転院、地元の人たちや幼稚園との巡り合いなどが助けとなり、奈緒さんは地域でスクスク育っていく。

 シリーズ1作目の撮影が始まったのは83年。メガホンを取ったのは信子さんの実弟、伊勢真一監督で、「長く生きられない」と言われた奈緒ちゃんの記録を家族に残してあげたい思いからカメラを回し始めたという。

 奈緒さんの成長を追いかけた「奈緒ちゃん」は95年に完成し、毎日映画コンクール記録文化映画賞などに輝いている。

 「奈緒ちゃん」は伊勢監督の長編デビュー作。その後、伊勢監督は様々な題材のドキュメンタリー映画に取り組みながらも要所要所で「奈緒ちゃん」シリーズを発表してきた。

 5作目の撮影を始めたきっかけは、信子さんがふともらした「私、終活を始めたの…」というつぶやきだったとか。

 奈緒さんは50歳になり、信子さんは傘寿の80歳を越えた。4作目までは溌らつと頑張っていた信子さんも背中が丸くなり、老いは隠せない。

 心臓に持病を抱え、自分亡き後の奈緒さんを気遣ったエンディングノートを3年前から書き始めている。奈緒さんに自分の声が聴き続けられるよう様々なメッセージの録音にも取り組む。

 本作はそんな信子さんの〝現在〟が淡々と描かれ、それゆえに彼女の心中を察すると胸が痛む。

 奈緒さんの9歳から50歳までの記録は、周囲の人たちの支援で奈緒さんや家族が成長していく過程が丹念に描かれている。この家族愛の物語は伊勢監督が身内だからこそなしえたものだろう。

 奈緒さんと信子さんにぜひスクリーンで会ってみてください。

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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