山女
今に通じる200年前の村社会
夏休み映画は「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」「キングダム 運命の炎」「君たちはどう生きるか」などの大作・話題作がそろい、観客動員は久しぶりに活況を呈している。そんななか、地味ながら見逃して欲しくないのが「山女」だ。
江戸時代中期、大飢饉(だいききん)に苦しむ東北の寒村。先代が犯した罪のため村人から蔑まれている家の娘・凛(りん)は、厳しい現実の中でもたくましく生きていた。そんなある日、飢えに耐えかねた父親が米蔵から盗みを働き、村中を揺るがす大騒動になってしまう。
村人から責められる父親をかばうため、罪を被って村を去る凛。禁じられた山の奥深くに足を踏み入れ、必死で逃げる凛の前に、白馬の騎士の如く現れたのは伝説的存在の〝山男〟だった――。
本作は柳田國男の「遠野物語」に着想を得たオリジナルストーリー。閉鎖的な村社会、集団による同調圧力、身分や性別による格差、自然を畏(おそ)れ敬う信仰心が作り出す理不尽さ…。200年以上前の寒村の物語ながら、現代にも通じるテーマが描かれる。
撮影は鶴岡市羽黒町の「スタジオセディック庄内オープンセット」が中心で、凛が踏み入る山奥場面は戸沢村の「幻想の森」で撮影した。
余談だが、筆者が幻想の森ツアーに参加した2年前、偶然にもこの撮影隊に遭遇し、凛役の山田杏奈さんに出会う幸運に恵まれた。ただ撮影のことは固く口止めされていたのでした。
他に出羽三山神社、最上町前森高原、高畠町などでもロケが行われた。
森の中で生き抜く山男を森山未來が、父親を永瀬正敏が見事に演じている。二ノ宮隆太郎、三浦透子、山中崇、白川和子、でんでん、川瀬陽太など近年の日本映画界を支える実力者に地元で活躍する役者たちも出演。
映像の美しさに目を見張るが、風景や物語を盛り上げる劇伴、アレックス・チャン・ハンタイが紡ぎ出す音楽にも耳を奪われる。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。