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荒井幸博のシネマつれづれ

「正欲」岸善幸監督

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少数派への理解の難しさ

 朝井リョウの同名ベストセラー小説を最上町出身の岸善幸監督が映画化した作品。1日に閉幕した「第36回東京国際映画祭」で最優秀監督賞と観客賞の2冠に輝いている。

<荒井幸博のシネマつれづれ>「正欲」岸善幸監督

 横浜で暮らす検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)は自分の価値観に絶対的自信を持ち、不登校になった息子の教育方針を巡って妻(山田真歩)と衝突を繰り返していた。


 息子は、自分自身をユーチューブで様々に発信、その上々の反響に遣り甲斐を見出し、活き活きとしだすが、啓喜はそれは〝逃げ〟でしかないと認めない。


 一方、広島のショッピングモールで契約社員として働いている桐生夏月(新垣結衣)は、内に抱える特殊な性癖を隠して他者と交わろうとしない日々を送っていた。


 そんなある日、夏月と同じ性癖を持ち、中学の時に転校していった佐々木佳道(磯村勇斗)が10数年ぶりに地元に戻ってくる。佳道も職場のパワハラなどに嫌気がさして帰郷したのだった。自然な形で2人は一緒に暮らすようになり、幸せをつかんだかに見えた。


 それが、佳道がネットを通じて出会った同じ性癖の男や、大学のダンスサークルに所属する諸橋大也(佐藤寛太)と交流した途端、思いもしない事件に巻き込まれる。
 そして担当する検事は啓喜だった――。

 岸監督にインタビューしたところ、稲垣、新垣らの演技が狙い通り素晴らしく、大いに満足していることを熱く語ってくれた。特に従来のイメージとは距離のある役どころに挑んだニュー新垣に注目。


 一見すると何の脈絡もない3つのストーリーが、ある共通のものを通じて絡み合っていく。このデリケートな題材を原作者の朝井、脚本の港岳彦、出演者らと話し合いを重ね、見事な作品に昇華させた岸監督に拍手を贈りたい。


 大多数、普通の側に身を置くことは楽だが、その価値観だけに凝り固まり、少数派を理解する努力を怠っていいのかということを突き付けられた気がした。


シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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