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荒井幸博のシネマつれづれ

春に散る私

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これぞ、ボクシング映画

 

 ボクシングを題材にしたノンフィクション「一瞬の夏」で知られる沢木耕太郎が、やはりボクシングに命をかける男たちの生き様を描いた小説「春に散る」を映画化した作品。監督は「糸」「護られなかった者たちへ」の瀬々敬久。

<荒井幸博のシネマつれづれ>春に散る

 米国暮らし40年の元ボクサー・広岡仁一(佐藤浩市)は実業家として成功していたが、心臓に病を抱えて帰国、かつてのボクシング仲間と共同生活を始めていた。

 そこに不公平な判定負けに嫌気が差し、一度はボクシングを引退した青年・黒木翔吾(横浜流星)が現れ、ボクシングを教えてほしいと仁一に懇願する。翔吾は数日前に仁一がチンピラ3人を拳で沈めたのを見て、自分も挑みKOされた屈辱を味わっていた。

 病気を理由にいったんは断る仁一だったが、不完全燃焼のままボクシングを引退したのは仁一も同様で、翔吾の熱意に突き動かされて世界チャンピオンを目指した猛特訓が始まるのだった――。

 空手の実力者の横浜は、実際にボクシングプロテストに合格する熱の入れよう。彼に立ちはだかる世界チャンプ中西役の窪田正孝もまたボクサーの身体を作り上げ、2人の凄絶な打ち合いはハンパない迫力。その横浜をトレーナーとして指導する佐藤も62歳ながらかなりのトレーニングを積んだことがうかがえる。


 メガホンを取った瀬々監督は物語の軸となる仁一と翔吾の関係について、「教えるだけでなく、若い者から自分が失くしてしまったものを思い出させてもらうといった、一方通行ではないキャッチボールが表現できれば嬉しい」と語っているが、佐藤と横浜によって見事に表現された。

  共演は、かつてボクシングライセンスを取得した片岡鶴太郎、共同生活を送ることになる仁一の姪にスッピンメイクの橋本環奈、最初のライバルの坂東龍汰らに加え、哀川翔、山口智子、小澤征悦、坂井真紀など実力者が顔を揃える。

 ボクシング映画に駄作なし。というより新たな傑作が誕生した。


シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。

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