ケイコ 目を澄ませて
岸井ゆきのが圧巻の演技
聴覚障害の元プロボクサー、小笠原恵子の自伝「負けないで!」を原案に、「きみの鳥はうたえる」の三宅唱監督が脚色し、メガホンを取ったのが本作。公開は12月16日から。
生来の聴覚障害で、両耳とも聞こえないハンデを抱えながら、健聴者以上に鋭い感性を持つケイコ。ホテルの清掃員をしながら下町の小さなボクシングジムに通い、プロボクサーとしてリングに立ち続けていた。
ジムの会長やトレーナーも彼女の良き理解者で、コミュニケーションが苦手な彼女が思いの丈を存分に発揮できる場所だった。だがジムは建物の老朽化に伴う経営難で閉鎖されることになり、会長も病に倒れてしまうことに――。
ケイコを演じるのは岸井ゆきの(30)。身長150センチと昨今の主演級女優に比べて小柄で、失礼ながら顔も大きめ。逆に言えば庶民派で、個人的には脇役には打って付けの存在と思っていた。
それが2019年公開の「愛がなんだ」でヒロインに抜擢されてからは主演・準主演を務める快進撃が続いている。今年は、映画「やがて海へと届く」「神は見返りを求める」「犬も食わねどチャーリーは笑う」、ドラマ「恋せぬふたり」「パンドラの果実」「アトムの童」など主演級の出演作が目白押し。
シャドーボクシング、縄跳び、ランニング等のトレーニング、試合での凄絶な打ち合い、手話…。それらの全てが付け焼き刃でないホンモノを感じ、岸井の並外れた努力が窺える。表情も格闘家そのもので、予告編では岸井とは気づかなかったほどだった。
ジムの会長を演じるのは三浦友和、その妻に仙道敦子、トレーナーに三浦誠己、松浦慎一郎、ケイコの母に中島ひろ子。他に渡辺真起子、中村優子、足立智充らが出演。
三宅監督は「全員が岸井さんを真剣に見つめ、吸い寄せられ、引っ張られるように1ショット1ショットを丁寧に積み重ねていくという現場だった」と語っている。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。