あちらにいる鬼・母性・月の満ち欠け
廣木隆一監督が手がける3作品
リアルな人間描写で幅広いジャンルに挑んできた廣木隆一監督の2作品が相次ぎ公開され、1作品の公開が控える。
「あちらにいる鬼」は、作家・井上荒野が自身の父である作家の井上光晴と母、瀬戸内寂聴をモデルに男女3人の特別な関係をつづった同名小説の映画化。寂聴がモデルの長内みはるを寺島しのぶ、その不倫相手で井上光晴がモデルの白木篤郎を豊川悦司、妻を広末涼子が演じる。
みはると篤郎が講演旅行で出会った昭和40年代から、篤郎ががんで死ぬ直前まで(井上光晴の没年は1992年)の2人のどうしようもない性(さが)、男のずるさ、女のしたたかな強さが描かれる。
「母性」は湊かなえの同名小説の映画化。原作は湊が「これが書けたら作家を辞めてもいいという思いを込めて書いた」と語るほどの渾身作。
誰もが母性を持って母になれるとは限らない。幸せな家庭で育ち、いつまでも愛する両親の子どものままでいたい、母であるよりも娘であり続けたいと願う女性はきっといるはずというのが湊の訴え。
娘を愛せない母親を戸田恵梨香、母に愛されたい娘に永野芽郁。このほか三浦誠己、大地真央、高畑淳子らが脇を固め、原作者の意図を見事に昇華させた作品だ。
12月2日に公開される「月の満ち欠け」は2017年に第157回直木賞を受賞した佐藤正午による同名ベストセラー小説の映画化。愛する妻と娘の2人を不慮の事故で同時に失った主人公は大泉洋、妻に柴咲コウ、娘に菊池日菜子。他に有村架純、目黒蓮、伊藤沙莉、田中圭ら。
〝生まれ変わり〟をテ ーマに数十年の時を超えて物語が展開する感動作。劇中で流れるジョン・レノン「WOMAN」が耳に残る。
ここ数年はヨーロッパでの人気が高まり、特集上映が相次いでいる廣木作品。3作品にスクリーンで出会い、廣木監督の奥行きの深さを味わって欲しい。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。