プアン 友だちと呼ばせて
心を揺さぶられるタイ映画
本作は2017年に公開された「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」で注目を集めたタイのバズ・プーンピリヤ監督が、余命宣告を受けた男と親友の姿を描いた人間ドラマ。
ニューヨークでバーを経営するタイ出身のボスのもとに、バンコクで暮らす友人ウードから数年ぶりの電話が入る。それは「白血病で余命宣告を受けた」「最後の願いを聞いて欲しい」というものだった。
取るものも取りあえずバンコクへ駆けつけたボスは、やせ細り、スキンヘッドになったウードの姿に驚く。彼から頼まれたのは、ウードが元恋人たちを訪ねる旅の運転手をすることだった。
元恋人ごとに違う思い出の曲がカーステレオから流れ、かつて2人がニューヨークで暮らしたころの記憶を甦らせる。
ダンサー、女優、写真家を目指していた3人の元彼女たちは一様にウードと会うことを拒むが、彼女たちを説得するボスの尽力が奏功し、どうにか対面を果たす。別れた理由はそれぞれ違うが、ウードの狭量さ、嫉妬深さ、傲慢さが浮き彫りになる。死期を悟った彼はそれらを素直に認め、謝罪するのだった。
過去の恋への決着をつけるたびにスマホのアドレスから名前を削除していくウードと、失くしたものと思っていた彼との友情を再認識していくボスだったが、旅の終わりが近づいたころ、ボスはウードから唐突に秘密を打ち明けられる。
その秘密こそ、ボスの過去を書き換え、未来をも変えてしまうほどのものだった――。
男性同士の恋愛を描いたBL(ボーイズ・ラブ)映画かと思いきや、2人の男がたどった人生が重厚に描かれる。21年サンダンス映画祭のワールドシネマドラマティック部門で審査員特別賞を受賞したのも納得。
プーンピリヤ監督は「本作を観て未来が変わる人がいたら心から『ありがとう』と言いたい」と語る。未来が変えられるかどうかは分からないが、心を大きく揺さぶられる珠玉のタイ映画だ。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。