とんび
永遠に切れない父子の絆
直木賞作家・重松清の60万部を超えるベストセラー小説「とんび」の映画化。
昭和37年。瀬戸内海に面した備後市で運送業者の安男(阿部寛)は、愛妻(麻生久美子)の妊娠に嬉しさを隠せない。幼いころ両親と離別した安男にとって家庭を築くのはこの上ない喜びだった。
やがて息子の旭が誕生し、周囲は「とんびが鷹を生んだ」とはやしたてる。だが、ようやくつかんだ幸せも、旭が3才の時に妻の事故死で打ち砕かれ、父子二人きりの生活が始まる。
親の愛を知らずして父になった安男だったが、姉貴分で小料理屋を営むたえ子(薬師丸ひろ子)や、幼なじみの照雲(安田顕)たちに支えられながら不器用ながらも深い愛で旭を懸命に育てる。そしてある日、誰もが口を閉ざしていた母の死の真相を知りたがる旭に、安男は大きな嘘をついてしまう――。
幾度途切れても必ずつながる父と息子の絆を描いた感動作「とんび」は過去に2度、堤真一と池松壮亮、内野聖陽と佐藤健のコンビでTVドラマ化されている。今回、父親役の阿部とコンビを組む旭役は北村匠海。
監督は「64」「糸」「明日の食卓」など精力的に力強い作品を世に送り出している瀬々敬久で、阿部とは「護られなかった者たちへ」に続いてのタッグになる。
主要キャストの他に杏、大島優子、濱田岳、宇梶剛士、田中哲司、豊原功補、嶋田久作、村上淳、尾美としのり、吉岡睦雄ら多彩で豪華な俳優陣にまざり、故若松孝二監督の盟友・足立正生監督(82)が出演していることも付記しておく。
無法松のような父と、芯がしっかりして真っ直ぐに育つ息子の絆だけでなく、二人を取り巻く人たちの愛情や優しさに幾度も涙。
昭和37年から令和元年までが描かれるが、小林旭「ダイナマイトが百五十屯」、沖縄民謡「十九の春」、フィンガー5「恋のダイヤル6700」、八代亜紀「雨の慕情」、ゆず「風信子」と音楽でたどれるのも嬉しい。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。