山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

Coda(コーダ)あいのうた

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青春の葛藤と家族愛

 米マサチューセッツ州の漁村で、聴覚障害者の両親と兄の4人で暮らしている女子高生ルビーは家族で唯一の健聴者。早朝から家業の漁業を手伝い、幼いころから〝通訳〟として健気に家族を支えている。


 新学期、ルビーはひそかに思いを寄せる同級生マイルズと同じ合唱団に入る。彼女の歌声を聞いた顧問の音楽教師はその才能に気づき、名門音楽大学の受験を勧める。


 歌うことが大好きなルビーの夢は膨らむ一方だが、娘に依存し、娘の歌声を聴いたことがない家族は大反対。家族のために地元に残るか、自分の夢を追いかけるのか、ルビーの悩みは深まる一方だった――。

<荒井幸博のシネマつれづれ>Coda(コーダ)あいのうた

 本作のタイトルであるCodaは「耳の聴こえない両親に育てられた子ども」を意味するそうだが、音楽用語の「楽曲や楽章の終わり」を意味するCodaにもかけたダブルミーニングだろう。


 気はいいが下ネタだらけで下品な父親、どこまでも明るい母親、男気ある妹想いの兄を演じた3人はいずれも実生活でも聴覚障害のある役者たち。この配役はシアン・へダー監督の拘りだった。時に無音にし、観客を聴覚障害者の立場に置く工夫もあり、登場人物にいっそうの共感を覚えていく。

 母親役のマーリー・マトリンは「愛は静けさの中に」(1986年)で史上最年少の21歳でアカデミー主演女優賞を受賞した経歴の持ち主。本作でも美しさにその片鱗はあるが、あけっぴろげな肝っ玉母さんぶりは同一人物とは思えず、エンドクレジットで初めて気づいたほど。


 ルビーを演じたエミリア・ジョーンズは演技、歌声ともに申し分なく、今後に大きな期待を抱かせる。彼女が歌う「青春の光と影」はジョニ・ミッチェルが68年にヒットさせた名曲だが、新たな息吹を与えてルビーそのものを表す歌として見事によみがえらせた。

 60年代から80年代の懐かしのポップスとともに若者の青春と葛藤、そして家族愛を描き、背中を押してくれる感動作。

 

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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