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荒井幸博のシネマつれづれ

フォーリング50年間の思い出

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父と子の恩讐の彼方

 「ロード・オブ・ザ・リング」「グリーンブック」などの名優ヴィゴ・モーテンセンが、自身の親子関係をテーマに初監督、製作、脚本、主演を果したヒューマンドラマ。

<荒井幸博のシネマつれづれ>フォーリング50年間の思い出

  同性愛者のエリック、養女のモニカとロサンゼルスで暮らすパイロットのジョン(ヴィゴ)のもとに、認知症を発症した父親のウィリス(ランス・ヘンリクセン)が終の棲家を探しにシカゴからやってくる。


 ジョンが思春期のころから、保守的、傲慢な父親との間に埋まらない溝があった。だが認知症で過去と現在の出来事が混濁しているにも関わらず、父は昔のように家長として攻撃的にふるまうばかり。  

 ジョンはじっと耐えて父の面倒をみようとするが、向き合っているうちに50年間の記憶がとめどなくあふれ出していく。


 父に反発して優しかった母親、妹と家を出るが、母は若くして他界。父と後妻と暮らさざるをえなくなった肩身の狭い想いなどが去来し、遂に怒りを爆発させてしまう。そして、父も――。

 2020年、第73回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション作品。ヴィゴは、自分の両親や兄弟への感情、両親から学んだことを掘り下げたいという想いから本作の製作に至ったという。


 差別主義者で傲慢、分断のアメリカの権化のような父親を演じたのは、「エイリアン2」で体がちぎれるアンドロイドのビショップ役が印象深いランス・ヘンリクセン。追想シーンでの若き日の父親役は、「ボルグ/ マッケンロー 氷の男と炎の男」のスヴェリル・グドナソンが演じている。このほか妹役のローラ・リニー、母親ハンナ・グロスなども好演。

  ヴィゴは「父の生き方を受け入れるのに長い時間がかかったが、それができたことが嬉しい。そして父も彼なりのやり方で返答してくれた」


 「人それぞれコミュニケーションの方法は違う。本作は受け入れること、そして許すことの大切さについての物語でもあります」と語っている。

 

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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