名も無い日
弟の孤独、兄の後悔
「健さん」「エリカ38」などでメガホンをとった写真家の日比遊一が自身の実話を映画化し、監督を務めた人間ドラマ。
ニューヨークで写真家として活躍する小野達也が郷里の名古屋に帰郷する。出迎えた弟・隆史との会話から、2人は3人兄弟の長男と三男で、次男・章人が亡くなっての帰郷らしい。
若き日、長男は写真家への夢を追いニューヨークへ、三男は東京へ、そして東大→米ハーバード大と絵にかいたようなエリートコースを歩んでいた次男が名古屋に残り、両親の世話をしていたことが分かってくる。
次男は孤独死だった。なぜ一家の誇りともいえるエリートがそんな結末を迎えなければならなかったのか。過去の記憶をさかのぼるように名古屋の街を巡る達也は、少しずつその真相に行き着くのだった――。
衝撃的事実を前にして、故郷でカメラのシャッターを押せないでいる主人公、日比監督の分身ともいえる達也役を写真家としても評価の高い永瀬正敏、破滅へ向かっていく次男・章人をオダギリジョー、健気に兄達を支えてきた三男・隆史を金子ノブアキが演じる。
隆史の妻・真希を真木よう子、達也の同級生で若き日に恋人を亡くした哀しみを引きずっている明美を今井美樹が演じ、亡き恋人の母を、一昨年11月に心臓死で69歳で他界した木内みどりが演じて遺作となった。
他に草村礼子、中野英雄、大久保佳代子、藤真利子、井上順、岡崎紗絵らが脇を固める。
熱田神宮の夏祭り「尚武祭」の提灯山車のきらびやかさが、章人の孤独と遺された者の言いようのない悲しみと後悔を際立たせる。
エンドロールの最後に日比遊一監督直筆の文言がクレジットされ、三男を救えなかった同氏の痛いほどの呵責の念をうかがわせる。
実績ある映画俳優、永瀬、オダギリ、金子が個性の違う3兄弟を演じる、見ごたえのある作品だ。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。