アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン
伝説のライブが甦る!
「ソウルの女王」アレサ・フランクリンが1972年に行ったライブを、後に「追憶」「愛と哀しみの果て」等で名匠の名を欲しいままにするシドニー・ポラック監督(2008年没)が撮影したドキュメンタリーが本作。
「72年に撮影された映画がなぜ今?」といぶかる人もいるだろう。タネを明かせば、ポラック監督は音楽ドキュメンタリーの仕事は実は初めて。別々に収録する映像と音声の素材を編集時に同期させるためのカチンコを入れ忘れるという致命的なミスを犯す。
そのため、同期をとることが出来ず編集を断念し、数十年もお蔵入りになっていた。それが現在のデジタル技術で約半世紀ぶりに映画が完成し、ようやく公開されることになったというわけ。
満足なスポットライトも音響設備もない。マイクも牧師が説教する講壇の上に置かれ、アレサはピアノの弾き語りもするが、大半は講壇の後ろに立って歌うだけ。ところがゴスペル・コーラス隊を従え、信者席に熱烈なオーディエンスを迎えて行われたライブの熱気は凄まじく、真冬にも拘わらず歌っているアレサは汗だく。
中でも11分間に及ぶ「Amazing Grace」は圧巻で、観客だけでなく、ピアノ伴奏をしていたジェームズ・クリーブランドが号泣してしまうほど。余計な演出がないだけシンプルにアレサの歌のチカラに心を揺さぶられる。
客席にちらほらいる白人の中にローリング・ストーンズのミック・ジャガー、そしてチャーリー・ワッツが見受けられるのも嬉しい。ポラック監督が何度か見切れているのもご愛敬。
日本では、このライブの数日後に吉田拓郎「結婚しようよ」が発売。翌2月にグアム島から元日本兵・横井庄一さんが「恥ずかしながら」と帰国。笠谷・金野・青地が金銀銅メダルを独占した「札幌オリンピック」開催、連合赤軍による「あさま山荘事件」…。これらの出来事を思い起こすと感慨深いものがある。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。