山形コミュニティ新聞WEB版

荒井幸博のシネマつれづれ

騙し絵の牙

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丸ごと大泉洋の映画

 出版不況に加え創業⼀族の社長が急逝して揺れる出版大手の薫風社。次期社長を狙う専務の東松は、大改革の名のもとに売れない雑誌を次々と廃刊していく。


 カルチャー誌「トリニティ」も存続の危機に立たされる。一見お調子者で人たらしの編集長、速水は雑誌存続のために奔走するのだが――。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 騙し絵の牙

 26日から公開の「騙し絵の牙」で主人公の速水を演じるのは、北海道のローカル番組で脚光を浴び、今や映画・ドラマ・演劇界で客を呼べる主演俳優として確固たる地位を築いた大泉洋。


 原作は作家・塩田武士の同名小説で、当初から大泉を主人公に想定、出版界と大泉を4年間徹底取材して執筆した社会派ミステリー。


 「大泉洋が繰り出す明るい笑顔が、読後に異なる意味を含んだ笑顔に映るようにみせたい」(塩田)という趣旨から「騙し絵の牙」というタイトルが生まれたという。刊行は2017年で、18年の本屋大賞にノミネートされた。

 当然のことながら大泉ははまり役。自分を想定して書かれた小説の映画で主演するというのは俳優冥利に尽きるのではないか。15年公開の原田眞人監督「駆込み女と駆出し男」で見せた名演はフロックではないことを改めて証明した。


 メガホンを取ったのは12年公開の「桐島、部活やめるってよ」で第36回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した吉田大八監督。原作を敢えて換骨奪胎し、見事なまでに映画化した手腕は見事というしかない。

 速水に振り回される新人編集者を演じた松岡茉優の瑞々しい演技も特筆もの。東松役の佐藤浩市のほか、國村隼、佐野史郎、木村佳乃、中村倫也、斎藤工、坪倉由幸(我が家)、小林聡美、山本學、リリー・フランキーなどバラエティに富んだ配役も素晴らしい。

 出版会社に限らず、企業内での権力抗争での謀略・告発・情報操作・嘘は身近にもあるから辟易する。あなたは誰に重ね合わせますか?

 

シネマパーソナリティー

荒井あらい 幸博 ゆきひろ

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。


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