劇場版 殺意の道程
新感覚のサスペンス喜劇
WOWOWで2020年11~12月に放送されたオリジナルドラマ「殺意の道程」(全7話)の劇場版が本作。脚本は「架空OL日記」などで高い評価を得ているバカリズムが担当、彼が井浦新とともに主演を務める。監督はバカリズム作品を数多く手
がけてきた住田崇。
ある小さな会社の社長が取引先の社長・室岡義之(鶴見辰吾)の裏切りで自殺し、息子の窪田一馬(井浦)といとこの吾妻満(バカリズム)は室岡への復讐を決意する。
2人はひょんなことから知り合ったキャバクラ嬢のこのは(堀田真由)とゆずき(佐久間由衣)らの協力を得ながら完全犯罪を企てるが、事はそう上手くはいかない。
打ち合わせ場所をどこにするか?殺害方法は?どんな道具が必要か?そしてそもそも完全犯罪なんてどうやるのか?
2人は悪戦苦闘しながらも殺人計画を進めていくが…。そして復讐の果てに、衝撃の結末が待ち受けていた――。
バカリズムが言うように「普通のサスペンスドラマでは描かれることのない部分を事細かに描いた」結果、暗いはずのテーマがコメディになっていた。一馬と満が互いに「カズちゃん」「ミッちゃん」と呼び合いながら、そら恐ろしい殺害計画を話し合うのがまず面白い。
密談の場所を決めるのにどちらの家にするかで揉め、ようやく決まったファミレスでも、注文するメニューを巡って話が限りなく拡がるというグダグダぶり。
完全犯罪のプロジェクト名も「Mプロジェクト」「燃え上がる復讐の炎」で迷っていたら、途中で加わったキャバ嬢のアドバイスで簡単に覆ったり…。一事が万事この調子で、これでは父親の無念が晴らせるのかとこちらが気をもむほど。
生真面目で素直なお人好しのいとこ同士のほのぼのとした会話にいつしかのめり込み、うなずき、笑ってしまう。バカリズムマジックに引き込まれてしまう新感覚のサスペンス・コメディ。劇場で観てほしい一作だ。
シネマパーソナリティー
荒井 幸博
1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。