セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第117回 笹立新道
鶴岡市で、温泉街の湯野浜から人面魚で有名な善宝寺に至るには小山を迂回する必要があり、1975年(昭和50年)に廃止された庄内交通の電車もそうだった。
だが、そのはるか以前の明治末期、この迂回を解消しようと地元の篤志家が新道を掘削した。「笹立新道(ささだてしんどう)」と呼ばれ、ルートにはトンネル「笹立隧道」が含まれていた。
湯野浜を起点とすると、新道は温泉街を離れて笹立不動尊前を通って山に向かう。隧道をくぐって反対側に出ると、山道をしばらく下れば善宝寺の側面に出る。
そんな構想のもとに工事が行われ、笹川新道は開通した。
距離の短縮が期待された新道だったが、地元の人はあまり利用せず、従来通り小山を大きく迂回する道を選んだ。理由は照明のない暗い隧道内の不気味さ、時折起こる落盤に対する不安だった。
結局、短期間でこの新道は見捨てられ、忘れられた。現在、隧道口は土砂に埋もれかけ、その後に起きた落盤によって向こう側の光は見えない。 (F)