セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第104回 山十大屋
山形市十日町に「山十大屋」という由緒ある菓子店があった。
初市に欠かせない初飴の名店として知られていたが、私にとって初飴とは初市の路上で買うもので、菓子折りのやり取りをするような習慣もなかったこともあり、旧店舗の時代も建物の横を通り過ぎるだけだった。
だが当時の建物の写真を見返すと、同じ通りの藤田菓子店(撤去)や佐藤屋(現存)の建物に勝るとも劣らない凝(こ)った意匠だったことに気づく。
菓子の本体に凝った包装を施すように、建物も菓子の品格に箔(はく)をつける重要な要素だったのだろう。実用性を無視して風格を意識して建てられたことが見て取れ、同業の他店舗への対抗意識が伺える。
思い起こせば十日町から七日町、旅籠町にかけてアーケードがあった時代には、河内屋肉店、奥山ボーシ、おもちゃのみなくちやなど、市外の人たちにも馴染みの店が軒を連ねていた。時代遅れとされ、消えていったそれらの店が懐かしい。 (F)