セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第七十七回 上山トキワ館
今は映画館がない上山にも、かつては温泉街に老舗の映画館があった。
市内唯一の映画館ということで、「ドラえもん」を上映したかと思えば、題名の表記さえためらわれるような成人映画も上映していた。節操がないともいえるが、良心的に解釈すれば幅広い需要に応えようとする上映方針だったようだ。
全盛期のころは学校の映画教室にも使われていたようだが、末期には温泉街ということもあり、成人映画館としての性格が強まってきたようだ。
館内は今のシネコンではあり得ない桟敷席もあり、ごろ寝で鑑賞している観客の姿もあった。館外で売っているたい焼きも人気で、市民には親しまれた映画館だった。
ただ映画が斜陽になるにつれ、県内各地にあった映画館は昭和末から平成にかけて次々と閉館していく。上山トキワ館も例に漏れず、山形市に林立する映画館に客足を奪われスクリーンの幕を下ろしたのである。
閉館後も建物は現存し、凝った意匠の券売窓やタイル張りの柱など時代がかった雰囲気を醸し出している。いくつかの映画のロケにも使われ、「紅い眼鏡」(公開1987年)、「トーキング・ヘッド」(同1992年)などでその姿をみることができる。(F)