セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第七十六回 森旅館・廣や
山形駅周辺は今でこそビジネスホテルが林立しているが、かつては東口に数件の旅館があるだけだった。
中でも表通りにあった「むらきさわ屋」と「森旅館」は、出張や旅行で山形を訪れる人たちの定宿だった。当時は東京からの列車の所要時間も長く、日帰りなど考えも及ばないことだったろう。
現在のように深夜営業のコンビニや居酒屋があるわけでなく、泊まり客は部屋で杯を傾けるような過ごし方だったのではないか。
旅館に泊まって山形での用事を済ましてしまえば、土産物屋に立ち寄って汽車に乗り込んでいたと思われる。
近くにあった中華そばの「廣や」は丸太を用い体重をかけて生地を伸ばす独特の麺打ちが有名だった。部活動などで腹を空かせた学生が帰りがけに中華そばを掻き込んでいた。
時は経ち、駅舎が4代目に更新されるころ、いずれの建物も老朽化してしまい、森旅館と廣やはいつしか営業をやめてしまった。 (F)