セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第六十二回 かみのやま競馬場 その2
かみのやま競馬場は廃止の基本方針が示された後も現場では存続の道を模索したようだった。それでも売り上げは低迷し、ついに2003年11月11日、最期の日が訪れた。
当日は雨模様。この日がその日と知ってか知らずか、湿った砂の上を競走馬たちはいつもと同様に全力で駆け抜けていた。
日が落ちるころ、最後のレースが終わっても観客のほとんどは帰路につかずに場内に居残っていた。やがて場内がざわつきだす。次第に怒号が飛び交うようになり、物々しい雰囲気に。
何事かと怒号の矛先を探すと、そこには当時の上山市長の姿があった。廃止に至る顛末(てんまつ)を説明しているようだったが、怒号にかき消され何を言っているのか分からない。市長の話が終わっても観客の憤懣(ふんまん)はいっこうに収まらないようだった。
そのうち、観客が実況放送席を見上げ、おそらくアナウンサーと思われる人物名をコールし始めた。呼ばれたアナウンサーが涙ながらに観客に手を振る。
やがて殺気立っていた観客席のムードは一変し、競馬場への感謝の声がそこここで聞かれるようになった。 (F)