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セピア色の風景帖

《セピア色の風景帖》 第五十三回 冨士乃湯

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 山形市円応寺町の五中の北側に、一見アパートにしか見えない銭湯があった。と言うよりアパートの1階が銭湯だったのである。

《セピア色の風景帖》 第五十三回 冨士乃湯

 冨士乃湯というその銭湯の開業は昭和42年と聞く。当初は付近に建てられた公営集合住宅が風呂なしの設計だったため、大勢の固定客があったという。
 一般住宅のような玄関をくぐると、表からはうかがえなかった銭湯らしい光景にやっと出会えるのだった。下駄箱は大きく40~50人分はあったと記憶している。それだけ客が入っていた時代があったのだろう。
 番台はあったが、係のおばさんが自宅に戻って不在のこともあった。それでも客はごまかさず入浴料を置いていった。

《セピア色の風景帖》 第五十三回 冨士乃湯

 マリンブルーのタイルが貼られた湯船は大きくはないが深かった。壁のタイル画は2面あり、入り口付近に金魚、浴槽脇には富士山が描かれていた。薄暗いなか、どちらも目が慣れないとそれとは分からなかったが、それはそれで味のある雰囲気をかもし出していた。
 脱衣所には富士牛乳の牛乳箱があった。赤い公衆電話のような有料ドライヤー機もあった。
 
 あれから――。冨士乃湯は平成17年末に営業を終えた。(F)

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