セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第四十二回 デパート屋上
今では屋上を開放している百貨店は全国的に少なくなったが、大沼をはじめ今はない丸久、ステーションデパート(旧山形駅内)など山形の主なデパートの屋上には遊戯設備が備わっていた。それもゲーム機が数台だけという小規模なものではなく、まさに遊園地並みの設備だった。
当時、一家でデパートに出かけるということは単なる買い物に行くことではなく「ハレ」の行事だった。朝からみんな着飾ってそわそわして出かけたものだ。
デパートに着くと母親が買い物をしている間に子どもを連れた父親が屋上で一緒に遊びながら時間を過ごす。お昼になればみんなレストランに集まってウィンドウのサンプルを見ながら食べたい物を選び、かしこまって食事をして帰る。そこでの過ごし方は儀式にも似ていた。
エレベーターのお姉さんが「R」のスイッチを押してくれる瞬間からワクワクした。扉が開くのを待ち、「屋上でございます」の声と同時に駆け出していった。
そんな記憶を残してくれたデパートの屋上は今はなく、覗くことさえできない。あの空間を失ったことが昨今の百貨店の凋落にも関係しているようにも思えるのだが、どうだろうか。(F)