セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第三十四回 高陽堂書店旧店舗
個人経営の書店は全国チェーンやネット書店に押されて姿を消しつつあるが、中には他では扱わない専門書をそろえて生き延びているところもある。医学書専門店の高陽堂がそのひとつだ。
現在の店舗は大野目にあるが、かつては県道22号山形天童線沿いの旅篭町にあった。周辺には田中書店や古本屋の栄文堂、県道の外れにはリュウゴイチ書店もあった。
昭和初期の建造と思われる薄桃色の洋風の建物は細やかな装飾が施された重厚な造りだった。それだけでも記憶に残る存在だったが、心に強く刻まれているのは書籍売り場のほかにギャラリーを備えていたことだった。
専門の担当者を置いて絵画など芸術品を手がけていた。首都圏などにはあったのかもしれないが、当時としては単なる地方書店の域を超えていたのではないだろうか。
県道の拡幅が具体化する数年前に建物が解体されることになった際、その話題が人々の口にのぼることはなかったように思う。当時はその建物が特別のものではなく、周辺に歴史ある建物が櫛比(しっぴ)していたからか。
ただ残った建物も近年の拡幅に伴い一掃され、当時の街の面影を残すものは今ではもう何もなくなってしまった。(F)