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セピア色の風景帖

《セピア色の風景帖》 第二十七回 渡辺商店

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 以前は小学校や中学校の付近には文房具屋があった。滝山小学校(山形市小立)の前にあった渡辺商店もそのひとつだった。

《セピア色の風景帖》 第二十七回  渡辺商店

 ガッチャマンやハクション大魔王の下敷きや、「象が踏んでも壊れない」アーム筆入れなどはここで買った。駄菓子、雑貨も置いていて、文具を買ったついでにスーパーボールのくじを引いたり、母親から頼まれたゴムひもを買ったり。

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 店頭にあった十円カプセル販売機(当時ガチャポンなどという名称はなかった)に入れ込んだのも懐かしい思い出だ。運動会が近づくと「運動タビ」を買い求める子どもが多かった記憶がある。
 店に顔を出せばいつもおばちゃんが愛想よく迎えてくれた。学校帰りのひとときをおばちゃんとの会話や明日使う文具の品定めに費やす子どもの姿があった。当時の学校は子どもが帰りがけにこういう店に立ち寄ることについてあまりうるさく言わず、大目に見てくれる度量があった。

《セピア色の風景帖》 第二十七回  渡辺商店

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 だが時代が進み、学校が細かいことにまで目くじらを立て始めると、各地の文房具屋は苦境に立たされるようになる。学校と文房具屋の持ちつ持たれつの関係は崩れ始め、学校周辺の文房具屋は絶滅へと追いやられる。

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 渡辺商店の建物は当時でも相当古く、戦前の建築だったかもしれない。この建物もまた、おばちゃんが体調を崩すとともにあっさりと姿を消してしまったのだった。 (F)

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