セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第十二回 路上販売
ほんの少し前まで、山形市の七日町やJR山形駅前の周辺には路上販売の店があった。
私の記憶で一番古いのは富岡楽器店前の歩道に出ていた金魚屋であった。隣の丸久に行く途中、必ず立ち寄って黒デメキンを眺めていた憶えがある。
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新しいところではダイエーの隣で営業していた農家のおばさんの店、十字屋前の地下道に店を構えていたアクセサリー屋などが多くの人の記憶にあるのではないだろうか。
農家のおばさんの店はダイエーがあるのに成り立つのか疑問だったが、よく見ると季節の青果物、山菜など、都会で喜ばれそうな山形ならではの産物が揃えてあった。駅に向かう人が足を止めている姿を覚えている。
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十字屋前の地下アクセサリー屋は時に警察に注意されたりしたのか、姿を消したり現したりで、断続的に30年ほど営業していたように思う。
部活帰りの中高生に人気があり、しゃがみ込んで長時間店の前にいる生徒たちも珍しくなかった。品物を売るだけでなく、さながら街角カウンセラーのように家や学校では言えない話の相手になっていたのだろう。
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路上販売は商品に不都合があった場合の連絡先が不明なことや、交通の邪魔になるなどの問題からいつしか排除されていった。だが姿が消えた今、街並みの味付けが何となく足りなくなったような気もする。
一方でさまざまなキャッチセールスや大量の自動販売機はまだ路上で商売しているだけに、その思いはなおさら強い。 (F)