セピア色の風景帖
《セピア色の風景帖》 第五回 旧山形駅(上)
先代の山形駅は昭和四十二年に建設され、民衆駅と呼ばれた。国鉄だけでなく、民間の資本も導入して建てられ、商業スペースは「山形ステーションデパート」と命名された。
当時、駅前にはデパートはなく、個人商店が点在していただけ。それだけにステーションデパートの存在は際立っていた。
駅で乗降する観光客のために花笠や「いづめこ人形」、こけしなどのみやげ物が数多くそろっており、反面、衣料品などはほとんど置いていないというところが七日町のデパートとは異なっていた。玩具店、書店などもあったように記憶している。
当時のデパートの必須条件であった遊園施設も屋上に備えていた。ここにしかなかった遊具が「怪獣射的」だった。
ベルトコンベアーで回転して次々に現れる怪獣をコルク銃で撃ち倒すという単純なものであったが、当時は怪獣ブームの最中だったこともあって人気を博した。
子どもだけでなく、列車を待つ大人の時間つぶしとしても使われていたように思う。
ステーションデパートの面白いところは、入店する際には備え付けられたエスカレーターで上っていくのだが、下りのエスカレーターはなく、帰りには荷物を抱えて階段で降りなければならなかったことである。
買い物を終えてしまえば客は用済み扱いなのかと思わせられる造りであるが、不満を訴える人もあまりなかったようで、平成四年の駅舎解体まで下りのエスカレーターは設置されなかった。
しかし、ステーションデパートのある二階から直接列車に向かう人のためには跨線橋につながる小さな改札口が設けられており、この点は鉄道利用者には親切であったともいえる。(F)